東京地方裁判所 昭和40年(刑わ)3469号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
〔判決理由〕本件公訴事実中、酒酔い運転の訴因は、
被告人は、判示日時〔註・昭和三九年一〇月一三日午後一〇時二〇分ころ〕場所で、呼気一リツトルにつき〇・二五ミリグラム以上のアルコールを身体に保有し、その影響により正常な運転ができないおそれのある状態で、普通貨物自動車を運転した。
というのであるが、これについては次のように判断する。
被告人が訴因の日時場所で訴因の自動車を運転したことは判示のとおりである。また、当時被告人が呼気一リツトルにつき〇・二五ミリグラム以上のアルコールを身体に保有していたことは、司法巡査作成の酒酔い酒気帯び鑑識カードによつて認められる。ところで、飲酒に関する証拠としては、被告人の司法警察員、検察官、裁判所に対する各供述、谷口芙紀子の証言のほかにはない。これによると、被告人は、当日取引先の谷口と行をともにした関係で、午後一時ころうなぎ屋「宮川本家」で食事をしながらビール二本くらいを、午後四時ころ自宅でブドー酒一合くらいを、午後八時か九時ころ喫茶バーエキストか料理屋でコツプに一杯か二杯のビールを飲んだというのである。この飲酒の時刻と量に被告人の弁解するところをあわせ考えると、右のように飲酒したということならびに身体に〇・二五ミリグラム以上のアルコールを保有していたということだけでは(前述の鑑識カード中の鑑識者による被告人についての観察部分は、当時本人には事故((注・前方注視を怠つた業務上の過失により通行人(当時六二歳)をはね、約二時間五〇分後頭蓋内損傷で死亡したもの))によるシヨツクもあつたであろうから、必ずしも重きをおくわけにはいかない。)、被告人が酒の酔いにかられて前方注視を怠つたと即断することはできない。また、酒酔いのため自動車の操縦を誤つたという証拠はない。すると、判示事故をひきおこしたからといつて直ちに酒酔いのため正常な運転ができないおそれのある状態にあつたというわけにはいかず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。結局、右の訴因については犯罪の証明がないことになるから、刑事訴訟法三三六条に従つてこの点については無罪の言渡をする。(柏井康夫)